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気候市民会議(Climate Citizens’ Assemblies)は、気候変動に関する政策決定に一般市民を参加させる形式の民主的プロセスです。市民の多様な意見を集約し、気候変動に関する課題の解決に向けた提案を行うことを目的としています。
概要
気候市民会議は、無作為抽出で選ばれた市民が集まり、気候変動対策について議論する場です。この形式は、熟議民主主義(deliberative democracy)の一形態で、専門家や政策立案者のアドバイスを受けながら、市民が具体的な政策提案を作成します。
会議では以下が特徴的です:
1. 参加者の多様性: 性別、年齢、職業、地域などが偏らないよう、ランダムサンプリングを行います。
2. 熟議のプロセス: 市民が時間をかけて学び、議論を深め、合意形成を目指します。
3. 専門的支援: 専門家やファシリテーターがプロセスを支えます。
4. 政策提言: 結論は政府や自治体に提出され、政策形成の参考にされます。
歴史と背景
1. 初期の取り組み:
- 市民会議の原型は、1980年代から存在する熟議的な民主主義の実験に由来します。
- 初期の事例として、デンマークの「コンセンサス会議」があります。これが現代の気候市民会議のモデルの一つとなりました。
2. 気候変動への応用:
- 気候変動に関する市民会議が注目され始めたのは、2010年代に入ってからです。
- 2016年のアイルランドで開催された市民会議は、気候変動に加え、同性婚や中絶に関する国民投票の議論を行い、大きな成功を収めました。
3. パリ協定の影響:
- 2015年のパリ協定採択以降、世界各国で気候変動対策が重要課題として浮上しました。
- フランスでは、2019年に「気候市民会議(Convention Citoyenne pour le Climat)」が設立され、気候政策に対する市民の提言が注目されました。この取り組みは、気候市民会議の国際的な認知度を高める契機となりました。
4. その他の国々の事例:
- イギリス: 2020年に「気候市民会議UK」が設立され、気候目標に関する政策提案を行いました。
- ドイツ: 全国的な気候市民会議が複数回開催されています。
- 日本: 国内でも地域単位で気候市民会議が実施される動きがありますが、全国的規模の実施はまだ少数です。
目的と意義
- 政策形成への市民参加: 従来の代表制民主主義では、市民の声が十分に反映されにくいことがあります。市民会議はそのギャップを埋める役割を果たします。
- 社会的合意の形成: 市民間の合意形成を通じて、社会的な受容性が高い政策が生まれる可能性があります。
- 多様性の尊重: 異なる背景を持つ市民の声を平等に扱うことで、多様な視点を政策に反映します。
- 気候危機への即応性: 気候変動という緊急課題に対して迅速かつ実効的な対応策を議論する場を提供します。
課題
1. 政府との連携:
- 提案が政策にどれだけ影響を及ぼすかが、実施国によって異なります。
- 提案が無視される場合、市民の失望や不信感を生む可能性があります。
2. 市民の代表性:
- 参加者の選定が真に無作為かどうか、あるいは参加者が一般市民全体の意見を代表しているかどうかが問われる場合があります。
3. コストと時間:
- 市民会議の運営には多大な費用と時間がかかるため、資源の効率的な使用が求められます。
展望
気候市民会議は、気候変動のような複雑かつ全地球的な問題に対する解決策を生み出す可能性を秘めています。市民が主体的に政策形成に関与することで、気候行動に対する社会的な受容性と実効性が向上することが期待されています。
さらに、AI技術やオンラインプラットフォームを活用することで、より多くの市民が参加できる可能性が広がっています。この形式が、従来の民主主義の課題を克服し、より包括的で効果的な意思決定モデルとして普及することが期待されています。
ZINE
民主主義すべてを、あつかうのではなく、気候という今日的な問題に、あたらしいプロセスを持ち込んでやってみるというのはとても大きな経験になるよね。それがオンラインプラットフォームやAIによってより直接民主主義的になる可能性を秘めてるなら、実験としてやってみるのも良いんじゃないかなと思う。